市街化調整区域に土地・建物を持っていて、不動産屋に相談したものの「売れない」と言われる方は少なくないと思います。
私が勤務している不動産屋でも市街化調整区域のお客様からのご相談は結構多く、その中でも売れるものと売れないものとかなりの差があります。
この記事では、市街化調整区域で売れないものと、売れるものの違い、売れない場合の対策などをお伝えします。
市街化調整区域とは?を再確認しよう
市街化調整区域とは?基本的な定義と目的をわかりやすく
市街化調整区域とは、簡単に言えば「積極的な街づくりはしないよ」と県が方針を定めた地域です。(都市計画法7条)
もちろん道路や電気ガス水道などあるにはあるけど、市街化は抑制しますと言われている訳です。
主に田舎の方や農地や森林など都市機能の拡大が必要ない地域に指定されることが多いのですが、市街地に隣接するエリアでも市街化調整区域になってる場合もありますね。
市街化区域との違い
「市街化区域」はこれまで市街地として整備してきたエリアや、今後も計画的に市街地としていくことを目的とした区域です。住宅地や商業地としての開発が積極的に進められます。
一方、市街化調整区域は原則として新たな建築や開発が制限されています。この違いにより、土地や建物の価値にも大きな差が生じます。
市街化調整区域の土地や建物の制約
市街化調整区域では、原則として新築や開発が許可されません。ただし、大昔からある宅地や農家向けの施設など、特定の条件を満たす場合に限り、例外的に建築が認められることがあります。
この制約により、土地や建物の利用価値が低くなり、不動産市場では売れにくい傾向があります。
市街化調整区域の土地・建物が売れにくい理由
市街化調整区域が売れないいくつかの理由をお伝えします。
建築制限があるため売れにくい
上の方でもお伝えしましたが、市街化調整区域では原則として建物を建てられない制限があります。
家を建てるには条件を満たし役所の許可を得る必要があるのでハードルが高いのです。
特に住宅用地として利用したい場合は、いくつかの例外的な条件に該当しなければ建築が認められません。
なのでその例外に該当するかをチェックしていき、クリア出来ればたちまち売れる物件になることもあります。
購入希望者が少なくて売れにくい
市街化調整区域は基本的に開発が進まない地域であるため、住宅地や商業地としての魅力が低く、購入希望者が少ないのです。
特に一般の購入者は制約の多さや将来的な用途の不透明さが心配になるため、積極的に購入を検討する人が少ないのが現状です。
銀行ローンも通りにくくなる
市街化調整区域の土地や建物に対しては、銀行が融資を渋る傾向があります。
特に住宅ローンは、建築の可否や利用価値が不確定な物件には厳しい審査が行われてしまいます。
そうすると、購入者がローンを組むことが難しくなるので、買い手がつかず売却がさらに困難になるケースが多く見られます。
市場価格も低くなってしまう
市街化調整区域は需要が少なく、取引の機会も限られているため、土地や建物の市場価値が低い傾向があります。
購入希望者が少ないのでさらに価格を下げて売り出さないと見向きもしてくれない場合もあります。安くてもいいから手放す、という決意がないと売れない場合も多いでしょう。
市街化調整区域でも売れる物件と売れない物件
調整区域でも売れていく物件ももちろんあります。では売れる物件と売れない物件の違いは何かを整理してみました。
田舎であればあるほど売れにくい
これはイメージしやすい話だと思いますが、田舎に行けば行くほど市場の原理で売れにくく、安くなります。
一方、市街化区域のすぐ目の前なのに調整区域に指定されてる場合があり、そういった物件であれば比較的買い手が付きやすい傾向があります。
役所によって市街化調整区域の扱いが異なる場合がある
市によって市街化調整区域の物件に対する制限が異なります。
例えば以下の様なイメージです。
- A市の場合は、「建築するのではなく、中古住宅であれば誰でも買って住むことが出来る」
- B市の場合は、「中古住宅であっても買える人は限られます」
- C市の場合は、「その中古住宅は農家に許可を与えたので、今後買う人が農家であれば可能です」
- D市の場合は、「市街化区域に隣接するエリアであれば、土地から新築することもできます」
のような感じです。制限が多いほど市場が狭くなるため売れにくく、制限が少なければ普通に売れる物件となります。
ですので、あなたがお持ちの物件について自治体に詳しく話を聞いて、どんな人なら買えるのかを聞いてみるのも良いと思います。(その役割は不動産屋がやります)
市街化調整区域にかけられる制限と売れやすさ
調整区域にある不動産であっても以下の場合には、申請者の条件等ありますが、その中古住宅を買って住んだり、土地を買って再建築することができます。このような条件に該当する不動産だと売れやすさが違います。
- 線引き前宅地
市街化区域や市街化調整区域のエリア分けをすることを線引というのですが、これが行われるより前から宅地だった場合、建築が可能になります。線引日は市によって異なるので役所で確認できます。線引き前から宅地だったことの証明は登記簿、固定資産税台帳、建築検査済証、昔の航空写真を用意して、役所で確認してもらうことです。 - 既存宅地
市街化調整区域でも、役所に「既存宅地」として認められている土地であれば建築が可能だったりします。 - 50戸連たん
市街化調整区域の中で、住宅が70m未満の敷地間隔で概ね50戸(40以上)連なって建っているエリアの場合に、その土地へ家を建てるのが許可される場合があります。 - 農家住宅
もともと農家のために許可が出て建物がある場合、同様に農家としてその住宅を購入して住むことができます。
売却の可能性を高める方法
売れにくい調整区域の物件ですが、不動産屋が行う売却の可能性を高める方法や戦略をお伝えします。
適正価格の設定
市街化調整区域の土地や建物を売却する際には、他のエリアと比べて需要が少ないため、適正な価格設定が特に重要だと思います。
市場価格や近隣の成約事例を参考にしながら、購入希望者にとって魅力的な価格を設定することです。
どうしても自分の物件は高く売りたいと思うものですが、諦めて適正な価格で売り出せば、いくらか購入を検討してくれる人が現れると思います。
ターゲットを絞った広告手法
基本的には不動産屋が扱えば、athomeやsuumoなどのインターネットで他の物件と同様に広告が開始されます。
ただ他の物件と埋もれてしまうので、独自の広告も必要になってくるかもしれません。価格が低い物件は不動産屋もあまり積極的にならないため追加の広告費がかかる場合もあります。
業者向けの広告
市街化調整区域の土地は、資材置き場や太陽光発電用地としての需要が一定数あり、土地が広い場合に有効です。
資材置き場を探している業者は、広い土地、道路に面してる部分が多い、平坦、近隣に住宅がないような土地を探しています。
家が建ってる場合は解体して更地渡しにしたり、田んぼは埋め立てて整地したりする必要があります。
そのようにして業者をターゲットにした広告を展開できます。
特定エリアでのポスティングやDM
地域に根付いた潜在的な購入希望者を見つけるために、ポスティングやDM(ダイレクトメール)を活用するのも効果的です。
特に、周辺地域に住む業者や地元の人々は購入希望者になり得ます。広告には土地の特徴や用途の可能性を具体的に記載することで、関心を引きやすくなります。
物件に看板を立てて近隣にアピール
「近隣住民」なら購入のハードルが低い場合があります。例えば同じ業者、農家だったり、地場に長く住んでいたり、自治体の制約をクリアできるケースがあります。
そのような方々にも目立つように看板を立てておけばアピールになります。不動産屋に依頼して看板を立ててもらうとよいでしょう。
地元不動産業者の活用
市街化調整区域に詳しい地元の不動産業者を活用することで、売却の可能性が大きく高まります。
地元業者は自治体の市街化調整区域に関する法的制限にも詳しく、地域特有の需要や購入希望者のネットワークを持っているため、効率的な売却活動が期待できます。
法的制約をクリアした上での売却プラン
市街化調整区域の土地や建物を売却する際は、建築や開発に関する法的制約を事前に確認し、購入希望者に分かりやすく説明できるようにしておくことが大切です。
例えば、既存宅地であることを証明したり、特定用途での利用が可能なことを行政に確認しておくことで、買い手の不安を解消できます。
買い手の疑問を解消できる広告を提示することで、信頼感を与え、交渉をスムーズに進められます。
依頼する不動産屋にこの点を広告に明記してもらうように言うことが大事です。
もしあなたが既に不動産屋に依頼済みで、広告にそのような買主視点の文章が書かれてない場合は、すぐに依頼するか不動産屋を切り替えるほうが良いと思います。
市街化調整区域での建物売却をスムーズにするためのコツ
市街化調整区域の売却に関しては、不動産屋の立場から申し上げると、売主さんの協力が必要不可欠です。
例えば以下のようなことを確認したいです。
・農家だったのか、特定の事業のために許可が付与されているか
・土地や建物がどのように利用されていたか(農地、住宅、倉庫など)
・建築許可申請や済証があるか
・土地の境界はわかるか
・上下水道・電気ガスの整備状況や現況がどうなってるか、井戸を使ってるか、浄化槽は動いているか
・公課証明や課税証明の取得、登記簿謄本の取得
・建物は増築してないか、それは登記されているか
・近隣住民との申し合わせ事項があるか
・共有の土地はあるか、他人の土地を使ってないか
・過去に売買が行われた履歴があるか、それは登記されているか
・誰かに土地の一部を貸してないか、他人が使ってないか
・水害、地盤沈下、土砂崩れの経験があるか
・土地の高低差や地盤の強度について把握しているか
などです。もし親が亡くなって相続したような物件ですと調べるのに時間がかかります。不動産屋が単独で調査するとかなり時間がかかるでしょう。不動産屋も売れにくい物件にかけられる時間はそう多くありませんのでぜひ協力してあげてください。
リフォームや修繕はしなくてよい
よくリフォームしてから売却活動をしたほうが良いですか?とご質問がありますが、結論は「リフォームしなくてよい」です。
売れるかどうかわからない物件ですので、先に出費をしないほうが安全だからです。
購入者が自由にリフォームしたり解体して利活用しますので、売主側では現況渡しとしたほうがリスク無く取引ができるでしょう。
活用の可能性を具体的に提示
こちらは不動産屋としての仕事ですが、広告文をどのようにするかの話しです。具体的な活用の可能性、事例を提案するような文章をつけて広告するようにすれば買い手がつきやすくなります。
もし売主さんでアイディアがあればそれを不動産屋に伝えてください。例えば小屋は資材置き場に使ってたけど、水耕栽培をするのにも使えるよ、とか。隣のお宅の田んぼは業者が買い取って駐車場になったよ、とか。
不動産屋では出てこないアイディアがあれば伝えておきましょう。商売目的の人が見た時に反響になる可能性がありますので。
売れない場合の選択肢
市街化調整区域の土地や建物は、売却だけが選択肢ではありません。
どうしても売れない場合は、他の選択肢を考えていきましょう。物件の管理は大変ですし税金も馬鹿になりません。
賃貸としての活用
資材置き場や駐車場として賃貸することで、一定の収益を得ることが可能です。
また、建物がある場合は倉庫や事務所としての需要も見込めます。
税金分ぐらいは稼いでくれるかもしれませんよ。
賃貸契約を締結する際には、利用可能な用途や設備状況を明確にし、賃料を適正に設定することが重要です。
また借主が付いてるほうが投資家に売却出来るチャンスも増えます。
買取業者に依頼する方法
市街化調整区域の土地や建物は、専門の買取業者に売却することも一つの選択肢です。
業者による買取は以下のメリットがあります。
- 売却までの手続きがスムーズで時間をかけずに現金化できる
- 売ったあとの問題が出にくい 現況渡しであとの責任は業者が持つ
ただし、相場よりもかなり安い価格になる可能性が高いため、他の選択肢と比較しながら慎重に判断してください。
市街化調整区域の物件が売れないまとめ
以上のように、確かに市街化調整区域の物件は売れない、売れにくい傾向があります。ただ全ての物件が売れない訳ではありません。
法的な制約を洗い出し、どういった人なら買えるのかを明確にすることで、売れる道筋が見えてくるでしょう。