不動産屋で宅建士をやってるかねやまです。

長屋の売却を依頼されたことがあるので、その困難さを含め、長屋の処分や活用に関する記事を書いてみました。参考になれば幸いです。

相続した長屋、どうすればいい?知っておきたい基礎知識

長屋を相続すると、多くの人が「何から始めればいいのか」と迷います。特に長屋は一戸建てやマンションと異なり、構造や所有権が複雑なため、対処法がわかりにくい物件です。まず、長屋の所有状況を確認することが重要です。

所有状況の確認方法

親が亡くなって相続手続きを始める場合は、親名義の不動産一覧を確認することから始めましょう。
市町村の役場に行って「名寄帳」を取得することをおすすめします。名寄帳には所有している土地・建物の一覧が記載されます。

本人も把握してなかったり、1つの土地に見えて細かく別れてたりする場合があるので地番ごと把握するように努めてください。

土地が誰のものか、共有関係がどうなってるかを確認

建物の登記情報や土地の権利関係を調べ、所有権が親からどのように移転されているのかを把握しましょう。
登記簿謄本はWEBでも入手できますし、法務局に行くより早くて安いです。

長屋をどうするかを決めるために、「売却」「活用」「放置」「解体」の選択肢を比較検討しましょう。それぞれにメリットとデメリットがありますが、物件の状態や家族の意向、経済的な状況によって最適な選択肢は異なります。

さらに、長屋特有の問題として、壁を共有する隣家の意向を考慮しなければならない場合もあります。相続後に迅速に対応するためには、不動産屋や専門家に相談し、必要な情報を整理することが大切です。

相続した長屋の課題を整理する

長屋を相続した際、特有の課題がいくつか生じることがあります。一応把握しておいてください。

  • 売りにくい
    まず、売却の難しさはどうしても起こります。長屋は隣接する住戸と壁を共有しているため、売却が難しく、買い手が見つかりにくいという問題に直面します。
  • 隣家との調整
    修繕や管理の負担・隣人との調整も大きな悩みです。古い長屋は老朽化が進んでいることが多く、放置すると倒壊や雨漏りなどのトラブルが発生するリスクがあります。さらに、隣接住戸との境界が曖昧な場合や、隣人と共有している壁や排水設備などは、修繕の際に隣人との調整が必要になることがあります。
  • 空き家の維持負担
    固定資産税や維持費の負担も問題です。活用方法が見つからずに放置した場合でも、固定資産税は毎年発生します。このような状況を避けるため、売却や活用の方法を早めに検討することが重要です。

相続した長屋を活用する方法、賃貸・リフォーム・シェアハウス

相続物件は早く売却したいと思う方が多いと思いますが、ここでは活用の方法をいくつか紹介します。(売却の話は後述)

代表的な活用法は賃貸経営です。古い長屋でも立地が良ければ需要があり、家賃収入を得られる可能性があります。ただし、入居者を募集する前に建物の状態を確認し、必要に応じて修繕や設備の交換を行いましょう。

また、リフォームを行って物件の魅力を高めるのも一つの選択肢です。内装をモダンに改修することで若い世代へ売却できたり賃貸入居者をターゲットにすることができます。

他にはシェアハウスとして活用する方法も近年注目されています。複数の入居者が1戸を使う形式にすることで、狭い物件でも収益を最大化できる可能性がありますが、大家としての勉強が必要不可欠に思います。

賃貸管理の費用感

賃貸に出す際には不動産屋に募集や管理を依頼してもいいし、大家が自ら募集・管理をしてもよいです。不動産屋の仲介手数料は1ヶ月分の家賃、毎月の管理費は家賃の5%が目安です。

長屋の売却を選ぶべきケースとは?

長屋の活用は考えていない・・・
長屋を売却するべきか、あるいは放置するか・・・

こういった方は多いと思います。

売却を検討すべきケースとしてまず挙げられるのが、老朽化が進み修繕費が高額になる場合です。長屋は築年数が古い物件が多く、ボロボロの場合は補修や耐震補強が必要になることがあります。かかる費用が高額であれば、売却して現金化する方が合理的です。

相続後に利用する予定がなく、賃貸やリノベーションも難しい場合、維持費が家計を圧迫するようなら早めに売却することで負担を軽減できます。

さらに、物件の立地条件や市場動向も重要な判断基準です。交通アクセスが良く、需要が高いエリアにある場合は比較的スムーズに売却できる可能性があります。

一方、再建築不可物件や立地が悪い物件は、売却が難しいため他の選択肢を考える必要があります。

長屋の資産価値を正しく把握するためには、不動産屋に査定を依頼し、複数の意見を参考にすることが大切です。

長屋売却の相場とは?どれぐらい安くなるか

連棟式住宅(長屋やテラスハウス)の1戸を売却する際の価格相場についてです。

中古一戸建てと比較してどの程度安くなるかは、立地や市場需要、物件の状態によって大きく異なります。一般的な傾向として、同一条件(土地面積、建物面積、築年数など)価格は中古一戸建ての40%~80%程度となることが多いです。

★都心部の場合→中古一戸建ての約70%~80%程度
都心部では土地そのものの需要が非常に高いため、建物が連棟式住宅であっても、土地の価値が価格を支えることが多いです。

★郊外や地方の場合→中古一戸建ての約50%~70%程度

もちろんエリアや需要により異なります。確実なのは地場の不動産屋に聞くことです。

長屋を売却する際の注意点、古い物件でも買い手を見つけるコツ

古い長屋を売却する際には状態を把握することが大切です。

以前私が扱った長屋の所有者は相続してから1度も現地に行ってない、鍵も持っていない・・といった方でした。せめて現地や隣の入居状況や、室内の様子を見て欲しいと思います。

老朽化の程度、修繕履歴の確認、共有部分(壁や排水設備)の状態についても事前にチェックします。不動産屋に伝えればより詳しく調べてもらえるはずです。必要に応じて小規模なリフォームを行うことで、買い手にとっての魅力が向上します。

再建築不可物件の場合の対応策も重要です。このような物件は一般的に売却が難しいため、価格設定を市場相場より下げて売り出さないと見向きもされません。

場合によっては、隣接する住戸の所有者に売却の意向を伝えたり、買い取って一括で売却することでスムーズに取引が進むケースもあります。

不動産屋の選び方ですが、その現地に詳しい地場の不動産屋か、長屋や訳あり物件に精通した業者を選択肢に考えておくとよいです。

売却が進まない理由とその解決策、連棟物件特有の課題

長屋や連棟物件が売却しにくい理由を挙げてみます。

  • 壁や排水管などの共有部分があるため、買い手にとってはトラブルのリスクを感じやすい
    この場合、売却前に共有の規約や、隣人との申し合わせ事項があれば開示することが重要です。買い手が安心して購入できる環境を整えることが大切です。
  • 買い手が将来売却するときの困難さを考えると、購入に進みにくい
    都心の需要がある物件ではなく、郊外の連棟式物件はこの問題を抱えがちです。投資家向けに売ってみるのも手です。実需向けよりも、投資家向けなら買ってくれる人が現れやすいです。依頼する不動産屋にまずは投資家に連絡してくれ、と頼んでみるのもOKでしょう。
  • 売却価格でよくばってしまう
    古い長屋はそのままの状態で高値で売却するのは難しいです。どうしても高く売りたいなら自分自身で納得いくように複数の不動産屋にあたってみて相場をつかんでください。
  • 不動産屋がやる気が出ない
    正直言って、売れない長屋は不動産屋がやる気が出ない場合があり、のらりくらりやったり、広告を掲載してもらえない場合もあります。

売れない長屋、連棟式物件どうする?

売れない長屋を持ち込まれた時の不動産屋ですが、私の経験を書いておきます。

私が扱った物件は北関東の平屋の長屋で4戸が横並びでした。以前は沿道の商店街のようになっていたものの、今では老朽化し他の3軒も空き家になっていました。現所有者も現地の様子を見に行ってないのでわからないとのことでしたが、立地を見ても、Googleストリートビューで写真を見てもボロボロに見えました。現地の商店街はもう無く隣人も住んでなくて建物そのものを所有するだけで負債にしかならない状況です。

そもそも売却に出してみても買い手がつかないことは容易に想像できます。残念ながらこの物件の売却活動はお断りしてしまいました。

不動産屋としては扱いにくい物件でしたのでお断りしましたが、もし可能なら長屋の他の所有者にコンタクトを取ってみる可能性は残されています。登記簿謄本を見れば共有者が判明するので現所有者や住所を調べれば彼らにアクセス可能です。

隣家を買い取るか、隣の人に買い取ってもらう方法です。

あるいは不動産屋が連棟全てを買い取りして再販することで利益が出ると判断すれば、不動産屋を動かすこともできるかもしれません

訳あり物件買取業者の活用

訳あり物件買い取り業者に問い合わせしてみる価値もあるでしょう。

▼長屋連棟式物件の買取業者ラクウル▼

長屋を放置するとどうなる?税金・老朽化・トラブルのリスク

相続した長屋を放置すると、様々なリスクが生じます。

まず挙げられるのが税金の負担です。長屋を放置していても、固定資産税や都市計画税は毎年課されます。活用されていない物件に対して税を払い続けるのは苦しくなってきます。

次に、老朽化のリスクがあります。古い長屋は建築から数十年経過していることが多く、適切なメンテナンスが行われないと、雨漏りやシロアリ被害、外壁の崩壊などが進行します。これが進むと、安全性が低下し、自治体によっては税金が増え、建物の取り壊しを求められることもあります。

さらに、近隣トラブルのリスクも無視できません。放置された建物は外観が悪化し、景観を損ねることで近隣住民の反感を招く可能性があります。これらのリスクを避けるためには、早期に長屋の活用方法や売却を検討することが重要です。

長屋の切り離し解体という選択肢

老朽化して倒壊などのリスクがある部分を相続してしまったら、隣家に迷惑をかけないためにも「解体」という選択肢がありえます。また土地だけにすれば売却の可能性も見いだせるかもしれません。

切り離し解体とは、長屋や連棟住宅などの建物の一部を解体し、隣接する住戸や構造部分をそのまま残す工事のことです。

当然ですが、長屋は隣人と壁や基礎を共有しているため、解体による影響を説明し、粘り強く同意を得るために交渉をする必要があります。(所有者の3/4以上の合意が必要)また工事中の振動や騒音についても配慮しなければいけません。

この時、運良く共有者の一部からも解体希望が出れば費用を折半して解体できるかもしれませんので、打診してみる価値はあります。

切り離して残った建物部分や外壁の補修は解体する人が負担します。

相続した長屋をどうするか迷ったら?最初の5ステップ

相続した長屋をどうするか迷ったとき以下の5つのステップを参考にしてみてください。

Step1.物件の現状を把握する
まず、長屋の物理的な状態を確認します。建物の老朽化具合や修繕の必要性をチェックしましょう。また、登記情報や固定資産税の評価額を確認し、権利関係を把握します。読み方がわからなければ不動産屋に相談です!

Step2.利用目的や相続人の意向を確認する
長屋を売却するのか、賃貸や活用を考えるのかを相続人で話し合い、意見をまとめます。複数の相続人がいる場合は全員の同意がないと売れませんので。

Step3.市場価値を査定する
不動産屋に依頼して、物件の市場価値を査定してもらいます。複数の業者に依頼して相場を把握することが大切です。特に長屋は特殊な物件であるため、経験豊富な業者を選ぶと良いでしょう。

Step4.売却時価格、費用と収益を計算する
修繕やリノベーションにかかる費用や、賃貸経営の場合の収益予測を計算します。また、売却した場合の手取り額も算出し、それぞれの選択肢を比較検討します。

Step5.解体を検討する
売却や活用が難しい場合は解体を検討します。

売却・活用・放置・解体の判断基準を見極めるポイント

相続した長屋をどうするか決める際には、それぞれの選択肢のメリット・デメリットを把握し、自分の状況に最適な判断をすることが重要です。

  • 売却を選ぶべき場合
    基本的には手放して、今後一切の面倒事から開放されるのをおすすめしたいです。
    長屋が老朽化しており、修繕費用が高額になる場合や、需要があるエリアにある場合は売却が最善です。また、早急に現金が必要な場合も売却が有効な手段です。
  • 活用を選ぶべき場合
    大家としての意欲があるなら、賃貸需要があるエリアで建物が良好な場合は、賃貸経営やリノベーションによる活用を検討するのも一つの手段です。
  • 放置せざるを得ない場合
    需要のなエリアで物件の状態も悪く売却や活用が困難な場合、やむを得ず放置して問題を先送りすることもあります。固定資産税や老朽化リスクを考慮し少なくとも管理だけはしてください

  • 解体を選ぶべき場合
    老朽化がひどい場合や、隣家や所有者の同意が得られる場合は解体をしたほうが安全・衛生面でも安心できます。しかし解体費は100万円前後かかります。

判断を進める際は、まずは活用・売却を視野に、不動産屋に相談することをおすすめします。