宅建士のかねやまです。不動産屋で勤務する中で習得した、役所調査とはどういったものか、役所調査のやり方などお伝えしていきます。
一口に役所調査といっても情報量が膨大なので、今回は全体を俯瞰してみて概要的なお話になります。
不動産の役所調査、その意義とは
不動産の役所調査とは、取引対象の不動産に関する情報を市区町村の役所や関係機関で調査することです。
この調査では、対象不動産の地域の計画、建築基準、法的な制約、災害リスクなどを確認していきます。
これらの情報を整理し、不動産の買主に説明することで本当にこの物件を買いますか?という判断の1つにしてもらうことになります。
すなわち買主が不動産を買った後で、様々な課題・問題に直面することを回避するために事前にお伝えすることが役所調査の意義といえるでしょう。
役所調査の結果、重要事項説明を行う
宅建業法の35条で、宅建業者には買主に対して重要事項説明の義務が課せられています。どういった内容を説明すべきかは35条に書かれています。
宅建協会に加入したり、有名フランチャイズに加盟すると、重要事項説明書の雛形のエクセル等が使えるはずです。その雛形に従って記入していけば重要事項説明書が完成しますが、雛形に記入する内容を役所調査で調査してくればよいわけです。
不動産の役所調査のやり方(概要)
法的リスクの回避
不動産取引では、購入後に法律違反や制限のある土地であることが判明すると、大きなトラブルにつながる可能性があります。役所調査により、都市計画区域や建築基準法、道路法などに照らし、問題がないかを事前に確認することで、リスクを未然に防ぐことができます。
利用可能な用途の確認
市街化区域や市街化調整区域といった都市計画上の区分や、用途地域(例えば住居専用地域や商業地域など)を確認することで、その土地や建物をどのように利用できるかがわかります。これにより、購入者の用途に合致した土地かどうかを判断する助けになります。
建物の建築・改築の可否の確認
建築基準法に基づき、建物の新築や改築や再建築が可能かどうかを確認します。例えば、容積率や建ぺい率の制限により、希望する建物が建てられない場合があるため、事前にこれらの情報を調査することが重要です。
道路の状況確認
建築基準法では建物を立てる際には、基本的に敷地が4m幅の道路に2m以上接道しなければならない義務があります。道路の幅員と種別を確認することで新築を建てられるか、将来的に建て替えできるかの調査をすることが出来ます。また私道に面する物件では、通行権や利用権が法的に保障されているかも重要な確認事項です。
上下水道・ガス・電気の確認
上下水道の整備状況なども確認します。上水道管が来ているか引込管が来てるか、接続されているか、井戸水を使っているか、下水道管が来てるか引込管が来てるか、接続しているか、浄化槽や汲み取り式を使っているか。整備されていなければ整備の予定があるか負担金は支払済か、いくらかかるか。
ガス、電気は役所とは違いますがそれぞれの会社等に調査する必要があります。
環境リスクの把握
土壌汚染、地盤の状態、災害リスク(例えば洪水や地震のリスクエリア)などの環境リスクを確認することで、安心して不動産を購入・活用するための情報が得られます。
その他の法令制限
こちらのページも参考に。約60ものその土地を制限する可能性のあるその他の法令があります。これらの法令によって対象不動産が規制されていないかを確認することも役所調査の一環です。表を役所に持っていって該当するモノがないか確認する流れとなります。課をまたいで行ったり来たりしながら調査するのは日常です。
役所調査は、不動産購入において重要な判断材料を提供するためのプロセスです。この調査によって、不動産の潜在的なリスクや適正な利用方法を把握でき、取引の安全性が向上します。
役所調査が不足していると売買の取引後に思わぬトラブルが発生することにつながります。様々なリスクを予見して回避してみせることが宅建士や宅建業者の役割になります。
役所調査どこでやるの?何課?
役所調査は市区町村の役所で行います。
調査内容によって宛先の課が別れているので、街作り計画や用途地域は、「都市計画課」や「管理課」等の名称が多い気がします。
建築基準法の問い合わせは「建築課」「建築指導課」とか。あとは「道路課」「道路管理課」とかですかね。
上下水道は市が管理してる場合と、広域で複数の市をまとめて別の施設で管理してる場合もあるので、市役所で聞くと教えてくれるでしょう。
ガスは地域のガス管を配管した会社なのですが、日本ガス協会のページに行くと、地域ごとの会社名が出てくるので、そこから探すといいですね。
ガス会社による埋設管がなければプロパンガスかオール電化ですね。
役所調査の流れとコスト感
役所調査の流れは人それぞれだと思いますが、私の場合を書いてみたいと思います。
(1)登記簿を取る
まずは土地と建物の登記簿をとっています。オンラインで取れるので役所に行く必要がない。
地図(公図)や、地積測量図も同時に取れます。1通350円ぐらいです。
(2)都市計画と用途地域
市役所に行き都市計画課を訪ねます。事前に調べておいた、市街化区域、用途地域、建ぺい率、容積率を確認させてもらいます。市のホームページやゼンリンにも掲載されてますが、役所で確認することが大事です。
地区計画、都市計画施設、特別用途地区、特定用途制限地域、高さ制限、斜線制限、外壁後退距離、敷地面積最低限度、防火・準防火、土地区画整理事業、建築協定なども。
都市計画図は販売してますが、ホームページからダウンロードすれば無料です。
(3)道路課
前面道路が市道かどうかの確認をします。市道の場合は路線番号と認定幅員をチェック。道路台帳や道路査定図があればもらってきます。費用はコピー代10円ぐらい。市道じゃない場合は道路課では管理されてないことが多いように思います。
(4)建築指導課
先ほど確認したばかりの道路種別の確認をします。いわゆる建築基準法42条1項◯号道路や2項道路等の確認です。道路が「市道」じゃなかった場合もここに来ます。あとは建築の条件とか、再建築可能かとか、セットバックが必要かもここです。
(5)上下水道
上下水道が前面道路まで来ているか、引込管があるか、またその径Φの確認をして、埋設管図をもらってきます。10円。
(6)その他の法令制限を確認
一通り回ったらまた最初の都市計画課に戻ってきて60個の法令制限を確認しています。必要があれば他の課を案内されるので、その課に行って確認をとります。
役所調査の効率的な進め方とコツ
役所調査はどうしても時間がかかります。しかし効率的に回ることは可能です。
役所調査シートを独自に作成しておくことをおすすめします。
それは事前に市や県のホームページを確認することです。例えば以下のようなキーワードで検索するとよいでしょう。
◯◯市 都市計画
◯◯市 都市計画図
◯◯市 ハザードマップ
◯◯市 土砂災害警戒区域
◯◯市 高さ制限
◯◯市 土地区画整理事業
◯◯市 建築協定
◯◯市 高度地区
◯◯市 高度利用地区
◯◯市 特定街区
◯◯市 特定用途制限地域z
◯◯市 特別用途地区
◯◯市 防火地域
◯◯市 都市再生特別地区
◯◯市 駐車場整備地区
◯◯市 生産緑地地区
◯◯県 臨港地区
◯◯市 文化財保護法 埋蔵文化財
◯◯県 自然公園(国立公園 国定公園)
◯◯県 緑地保全地域
◯◯県 特別緑地保全地区
◯◯県 土壌汚染対策法
◯◯県 景観法
これらを検索して該当するものを確認しておきます。ヒットしなければその市や県では該当するエリアが無い事が多いです。
自分で調べた内容をシートに書き込み、それをもって役所を訪問し、調べた内容を確認する形で進行するとよいでしょう。
役所も相手は人です。初心者の人もいるしベテランの人もいるし、聞いてなくても教えてくれる人もいるし、聞かれない事は答えない人もいます。
優しい人ばかりではないので出来るだけ自分で調査してから行くと二度手間になることを防げ、効率的に回れると思います。
役所調査だけで現地調査をせずトラブルに
トラブルになった事例から注意喚起をしたいと思います。それは現地調査の重要性についてです。
まずは売主様からの依頼で物件の訪問査定をすると思いますが、そのタイミングおよび数回にわけて現地調査をすることも重要です。
売主へのヒアリングに加え、目で現地の状況を見るということです。ココを怠ると、役所調査で上下水道管の有無を確認してヨッシャと思ってたら、実際には「井戸水」が使われてたとか「浄化槽が埋まってた」という場合があります。
現実に売買契約と引き渡しが終わった後で、水が流れない、井戸水が来てる、浄化槽が出てきた等のクレームが買主さんから来たことがあります。これらは全て宅建業者の責任です。事前に調査していなかったのが悪いのですから。取引が終わった後の買主さんからの電話は冷や汗モノです。損害賠償請求とか県に駆け込まれると大問題です。
役所調査だけでなく現地調査の重要性も理解しておき、十分に計画的に余裕をもったスケジュール感で重要事項説明と契約日を迎えるべきだと思います。
よく売主・買主の事情で契約を急ぎたい場合なんかがありますが非常にリスクを伴います。または営業マンの今月のノルマに間に合わせるために月末に駆け込みで契約するなんてのも危険です。ろくすっぽ役所調査もせずに契約して、ハウスメーカーが地盤調査を始めたら、隣地の小道が二項道路で幅員4mなかった、なんて事もありました。あとから要セットバックの事実に気づき、土地を後退したせいで建築面積が減って予定していた家を建てられなかったのです。
これも余裕を持って役所調査と契約をしていれば回避できたことでした。
ということで、以上となります。