このページでは宅建業法72条の立入検査についての解説と、実際に立入検査を経験してのメモを残しておきます。
第七十二条 国土交通大臣は、宅地建物取引業を営むすべての者に対して、都道府県知事は、当該都道府県の区域内で宅地建物取引業を営む者に対して、宅地建物取引業の適正な運営を確保するため必要があると認めるときは、その業務について必要な報告を求め、又はその職員に事務所その他その業務を行なう場所に立ち入り、帳簿、書類その他業務に関係のある物件を検査させることができる。
2 内閣総理大臣は、前条第二項の規定による意見を述べるため特に必要があると認めるときは、同項に規定する宅地建物取引業者に対して、その業務について必要な報告を求め、又はその職員に事務所その他その業務を行う場所に立ち入り、帳簿、書類その他業務に関係のある物件を検査させることができる。
3 国土交通大臣は、全ての宅地建物取引士に対して、都道府県知事は、その登録を受けている宅地建物取引士及び当該都道府県の区域内でその事務を行う宅地建物取引士に対して、宅地建物取引士の事務の適正な遂行を確保するため必要があると認めるときは、その事務について必要な報告を求めることができる。
4 第一項及び第二項の規定により立入検査をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係人の請求があつたときは、これを提示しなければならない。
5 第一項及び第二項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。
6 内閣総理大臣は、第二項の規定による報告を求め、又は立入検査をしようとするときは、あらかじめ、国土交通大臣に協議しなければならない。
72条第1項
72条は宅建業者に対して、国土交通大臣および都道府県知事が適正な運営を確保するために行うことができる措置について述べています。
(1)報告の要求
国土交通大臣または都道府県知事は、宅地建物取引業者に対して、その業務に関する報告を求めることができる。
(2)立ち入り検査
職員は、宅建業者の事務所などに立ち入り、帳簿や書類、その他業務に関係する物件を検査することができる。
72条第2項
内閣総理大臣は、前条第2項の規定による意見を述べるため、報告の要求と立ち入り検査の措置ができる。
72条第3項
国土交通大臣と都道府県知事は、宅建士に対してその事務について報告を求めることができる。
72条第4項
立入検査を行う職員に関する規定です。具体的には次のような内容です。
・身分証明書の携帯
立入検査を行う職員は、自分の身分を証明する書類を常に持っていなければならない。
・身分証明書の提示
検査を受ける側の関係者(例えば、宅地建物取引業者)が職員に身分証明書の提示を求めた場合、職員はその証明書を提示しなければならない。
72条第5項
この条文は、立入検査の権限が犯罪捜査とは別のもの。つまり宅建業の適正な運営を確保するものであり、犯罪捜査を目的としたものではないことを明確にしています。
72条第6項
内閣総理大臣は、報告の要求や立ち入り検査をするときは、国土交通大臣に協議しなければならない。
さて、ここからは宅建業法72条で規定されていますが、県のほうから立入検査の通達があり、それを受けた事があるので、どんな感じだったかお伝えしていきます。
なぜ立入検査が?その理由とは
なぜ立入検査が行われるかその理由はわかりませんが、おそらく次のような観点かと思います。
・お客さんからトラブルやクレームの連絡があった
・他社からの告げ口により疑念を持たれた
・オープンして間もない(まだ更新が来ていない)
・辞めた社員による内部告発
疑念を持たれている場合は、厳しい検査になるのではないかと思います。
立入検査の前準備
前準備として当日用意して欲しい書類等が事前に通知があるので、それを用意しておきます。
チェック項目にしておきますので参考にしてください。
■掲示物など
- 従業員は従業者証明書の携帯
- 従業者名簿を用意(というか常に備え付けられてるはずですよね)
- 宅建業者票(標識)の掲示
- 最新の報酬額の掲示
■宅建士
- 宅建士が常勤していること
- 宅建士が宅建士証を携帯していること
■契約時の書類
- 取引の記録=帳簿を備える
- 売買契約書、賃貸借契約書
- 重要事項説明書
- 媒介契約書
- 支払約定書
- 領収書
- 本人確認書類のコピー
- 取引記録
立入検査当日の動き
検査員は複数名の場合もあるし1名で来店する場合もあります。
最初は挨拶と雑談ぐらいで早速書類のチェックに入りますが、その前に店舗の中の掲示物の確認をしています。
従業員は全員従業者証明書を提示、名簿とあわせてチェックします。
宅建業者として掲示、備える義務があるものはすべて確認し、あとは日々の取引に関する帳簿のチェックに入ります。
書類のチェックとそれぞれのヒアリングをして、問題なければ完了という感じです。何も問題がなければ1時間程度で終了します。
立入検査の難易度
難易度は普段からきちんと宅建業法に従って業務を行い、書類を作成していれば何も問題なく完了するでしょう。
普段から色々やらかしてたり、密告で検査に入られた場合は詳細を突っ込まれると思います。
あとは1人より複数名で検査に入られた場合の方が詳細まで見られるので危険なのではと思います。
立入検査でチェックされた事とは
これまでの取引の帳簿はすべてチェックされます。宅建業法だけでなく犯罪収益移転法に関する部分も。
つまり以下の書類。
・帳簿
・売買契約書、賃貸借契約書
・重要事項説明書
・媒介契約書
・支払約定書
・領収書
特に見られる部分
取引の都度、帳簿(取引台帳)を作成していることでしょう。帳簿の保管義務は事業年度末日で締めて5年間です。
また特に見られるのは報酬額。宅建業法で定められた報酬以内であることは当然ですし、宅建業法で規定されていないその他の請求額は厳しくチェックが入るでしょう。
注意したいのは消費税額。売主が事業者(売主や個人事業主)の場合は、売買代金に建物部分についての消費税額の記載が必要です。また媒介報酬額は建物の消費税額を除いた土地・建物の税抜価格から算出した報酬の限度額であることですね。
疑惑が生まれるのは、謝礼、コンサル料、AD費、ローン手数料などです。今まではNGとされていましたが、契約書で明記されていて顧客への説明と納得があれば仲介手数料とは別で費用を請求できますので安心してください。
媒介契約書にその旨が記載されあらかじめ説明され請求書を出していれば良いのですが、媒介契約書や他の契約書にその旨がなく、突然請求書に項目が追加されてるような形は違反になります。
こういったトラブルが起こると消費者センターや県に駆け込まれ、そこから立入検査になるケースもあるとのこと。
報酬以外に関して言えば、契約書や重要事項説明書に記載されている事項も間違えが無いように記載することが求められます。
自ら売り主の場合
クーリングオフの書面を交付しているか、損害賠償の違約金が代金の20%以下か、手付金も20%以下か。自ら売主で売った場合の担保責任の期間が2年以上となっているか。いわゆる他人物売買をしていないか。(三為が違法なわけではない)これらはよくチェック項目に上がる様子です。
犯罪収益移転法
反社によるマネーロンダリング防止や疑惑の取引のリスクを検出するために不動産屋に課せられているのが以下です。
・本人確認書類のコピー
帳簿作成の時に取引の相手方(売主、買主)の確認が必須です。確認は個人であれば「免許証」「マイナンバーカード」「パスポート」等の顔写真と誕生日と住所が記載のもの。法人なら商業登記簿謄本を取ったり代表者の免許証のコピーを撮っておくことです。
・取引の確認記録
そして本人確認書類をもとに取引記録を作成して保管しておきます。様式は国土交通省のページ参照
とはいえ相手が本当に反社なのかどうかは見た目ではわかりません。疑わしい取引は警察に届け出するように言われますが、おそらく困難です。しかし何かの捜査で問い合わせが来た時に免許証や記録を提供することは出来ますので、その目的もあります。
これらは7年間の保管が義務付けられています。
こんなことに注意してください
謝礼金を貰ってしまわないように
相手の善意とはいえ、契約にないお金を受け取らないようにすることが重要です。後で何かのトラブルに発展した時に自分を守るためにも、社員一同この意識を持って業務に当たることが求められます。
急な退職で専任の宅建士が不足したら
宅建業法では2週間以内に専任の宅建士を用意する必要があります。
とは言えすぐの応募でも人材が集まらない場合があります。長期間かかる場合は県に連絡することが大事です。処分ではなく納得という形で止められることができます。
相談無しで黙って営業してて後から専任宅建士を用意するなどしてしまうのは危険です。検査側も処分しないといけなくなるので基本的には事前に連絡を貰えれば、処分の前に止めることができると言ってました。
全ての取引をチェックしていない
立入検査では全ての取引をチェックしているようには見えませんでした。あまり書きすぎるのは良くないのでこれ以上書かないですし、不正や違反をしている宅建業者はそれこそ指導や勧告を受けたほうが良いと思いますので。それに私が受けた検査はあくまで一例でしかないと思いますので。
では、法律を守って正しく事業活動をしていきましょう!